2013年06月12日(水)~2013年06月23日(日)
12:00 - 20:00 入場無料
毎日欠かさず
弟は布団を干す。
今日もこれから先も外出する予定はない。
父は英語の勉強をする。
数年続けているが上達している様子はない。
かれらは見るために見ようとしない。
話すために話そうとしない。
話したくないことがたくさんある。
弟は布団を干す。
今日もこれから先も外出する予定はない。
父は英語の勉強をする。
数年続けているが上達している様子はない。
かれらは見るために見ようとしない。
話すために話そうとしない。
話したくないことがたくさんある。
※会場では作品の一部と本を交換いただけます。
ご来場の際には交換できる本をお持ち下さい。
ご来場の際には交換できる本をお持ち下さい。
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ひとつの大きな要因に弟が3年以上家から出ていないこと、家族以外の誰とも接していないことにあります。
今まで弟に関することは気になってはいても、それは作品にすべきではないと思っていました。
少し前に実家に引っ越しました。実家に帰った理由は弟のこともひとつにあります。
実家に帰ってすぐに、いままでほとんど会話という会話をしたことがない弟と初めて長い時間会話をしました。
そこでいままで知り得なかった弟のいま考えていることを聞くことができました。
そのとき、とにかく後悔しました。
なぜいままでこんなことを無視できたのか。自分にとても腹がたちました。
そして悲しくなりました。
私には弟を助けることはできないと思ったからです。
私には弟を助けることはできないと思ったからです。
彼は外に出ることを望んではいても、それを促しても完全に拒否をします。
そこには他者への絶対的な恐怖があります。
わたしたちは姉弟なので共通点も多く、その恐怖もわたしには理解できます。ただ弟の感じている恐怖は
姉弟である私でさえ想像もできないものでした。
人と接することを完全に拒否している彼を無理に他者に適応させようとすることはしたくはありませんでした。
彼も行動を起こしているのです。
家から出ないことで。
弟のことを怠け者だとおもう人はたくさんいるでしょう。父と母は今も弟に対してそう思っています。私もかつてはそう思っていました。
早く外に出ろ。働け。毎日のように家族は弟に言い続けていました。
働かなければ、他者と上手く付き合っていかなければ生きていけない。
他者とコミュニケーションをすることで何かを得られる。それはその通りかもしれません。
そうだとしても社会の理不尽や他者との関わりを徹底的に拒否する弟を、変えるべきだとは思いません。
わたしが変えるべきなのは弟ではなく、他者なのだとおもいます。
それぞれの作品について、
父は弟によく似ていて人付き合いが得意ではありません。仕事でも様々な苦労があったのではないかと思います。
父は毎日英語の勉強をしていて、大きな声で発音の練習をします。
なぜ英語の勉強をするのかと聞くと、父はただの趣味だから、と答えました。
旅行に行ったり、誰かとコミュニケーションをとるためのものではないのです。
毎日朝晩欠かさず父の英語を練習する声が聞こえます。
それは弟が毎日欠かさず布団を干したり、一日に二回もお風呂に入るという行動に似ていました。
弟は外に出ることができないのに潔癖なほどに汚れていないか気にします。
それらの行動がなんとなく恐ろしく感じられました。
かつては弟のことで家族の間で誰もが苛立っていた状態から比べると今では随分穏やかになりました。それぞれ平穏な日々を過ごしています。
母はガーデニングが趣味でいつも綺麗な花を植えていて、庭は花でいっぱいです。
飼っている犬も元気で家族みんな可愛いがっています。
みんな忘れようとしているのかもしれません。今ある状況を。わたしもよく忘れます。
でも花でいっぱいの庭をじっと見ていると思い出します。すこしずつ怖くなり、それはどうすることもできないと思いだして悲しくなります。
本を交換することについて、
交換することで弟と他者との間接的なコミュニケーションが成立します。
私やギャラリーを通してのコミュニケーションになります。
他者との関係を拒否する弟を変えようとは思わなくても、他者との関わりを完全に否定することは私にはできないので、
その微妙な立ち位置を間接的な「交換」というかたちにしました。
弟の誕生日にあわせて展覧会の時期を決めているので、本を読みたいと言っていた弟に交換した本を渡します。
弟の似顔絵みたいなものに関して、
私は彼を毎日見ているはずなのに顔はよく思い出せません。もしかしたら兄弟というのはそんなものかもしれませんが、
弟は家族であっても目を合わせることがほとんどできないので、わたしもあまり弟の顔を見ないようにしていることが要因にあります。
今回展覧会にほとんど私がいないことも、
展覧会を訪れた他者と顔を合わせず会話もしない、ある種の遮断状態にあるということも作品のひとつとしてあります。
榎本浩子